研究概要 |
施設の配置計画では,施設の機能やサービス内容に合わせて,受益範囲を設定するのが基本的な手法である。ところが,既存の各種行政圏域は,施設の受益範囲設定に大きな影響力を持っている。この研究は,このような各種行政圏域が,歴史的にみてどのような経緯で成立してきたか,各種施設やサービスの受益範囲とどのような整合性を持っているかを明らかにし,今後の地域施設計画での圏域設定手法に新しい知見を与えようとしたものである。 鹿児島県を研究の対象地域とした本年度は,江戸時代以前まで遡り当時の行政区域である群郷制の成立変遷過程を明らかにするとともに,明治22年の市町村制の施行・昭和28年の町村合併促進法に伴う市町村離散合併の経緯を分析した。この結果,鹿児島県では薩摩藩の群郷制が明治以降にも色濃く残り,交通・通信の不便さを補う形で市町村の組み替えが行われてきたことが明らかになった。一方,衛生・医療福祉・保安防災・教育・流通・通信などの施設・サービス体系に対応した生活圏域の構成状況を調査分析し,現在の市群または市町村の構成状況との整合性を検討した。この結果,生活圏と市群または市町村圏域の重複度は,地域によってさらに施設やサービスごとに大きなばらつきが認められた。 以上の結果,現在設定されている各種行政圏域は,近代国家成立以来住民の生活圏に合わせ統廃合の再編を重ね,一定の自律的意味合いを持った圏域であることが明らかになり,一度設定された施設の受益範囲にかえって硬直化が見られる場合も多く,受益範囲の設定には柔軟性を持たせる必要があるという知見が得られた。
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