本研究は多義的な意味を持つファサードについて、実験心理学的な手法を工夫、用いることにより、人がファサードをどのように認識・識別しているのか、そのプロセスを知り、ファサードを類型化し、その識別の性格の違いを明らかにする。また、SD法などを用いてファサードの心理的評価構造を捉える。さらに、ファサードの構造を数量的に表現する方法を開発し、ファサードを数値として記述した後、心理と物理的構成の両者の関係を定性的、定量的に明らかにすることを目的としている。 そのためにまず、建物の正面のみをコンピューター・グラフィックスにより、輪郭線から順に表示するという〈識別D法〉を開発し、ファサードの識別のプロセスを明らかにした。アイデンティティーの強い順に[輪郭型][エレメント型][面構成型][箱形]の4タイプに分類されることを示した。 さらに、正面のみでなく、側面も合わせて表示する〈2面識別法〉、ファサードのディテ-ルに着目し、その特徴の強弱を捉える〈識別D法〉を行った。その結果、各々4タイプに分類され、それぞれの特徴を示した。 次に、形容詞句対による7段階評定実験を21の典型的なタイプのファサードにおいて行い、〈多様性因子〉、〈重厚性因子〉、〈明るさ因子〉など10の心理因子軸をファサードの心理的評価軸として明らかにした後、それぞれファサードの心理量を得た。 一方でファサードの物理的構成を数量データとして表現するための検討を行い、面積、周長、高さ、幅、面の数などの18の要素に分解して、各々の数量を算出した。以上の分析から得られた心理量と物理量の単相関関係を相関係数や相関図を用いて明らかにした。 例えば、多様性因子はファサードの角の数、奥行段数、構成要素の種類数などと相関が高く、これらが増すと複雑な感じとなる、などファサードを心理的側面から解析することが出来た。 これらの成果は今後の研究に重要な意味を持つと言えよう。
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