薄層材料の内部摩擦の歪振幅依存性を解析して、薄膜を基板に積層したままの状態で、微小塑性に基づく力学応答を非破壊で定量的に評価することを目的とする。そのためには、(a)薄層材料の測定データから薄膜と基板の内部摩擦を分離し、(b)薄膜における内部摩擦の歪振幅依存性から転位による塑性歪と応力の関係を正確に定量する必要がある。本研究では、これらの内部摩擦の理論式を明らかにし、シリコン基板上に積層したアルミニウム膜(厚さ:0.2〜2.0μm)の力学物性の評価に応用した。 薄膜材料の内部摩擦は、理論的には薄膜と基板の内部摩擦の弾性歪エネルギー分率の和で表される。この場合の弾性歪エネルギーは振動変形中の試料内の歪分布を考慮すれば求められるので、縦振動、横振動およびねじり振動の各振動モードについて内部摩擦に関する構成式を導出した。今回、この構成式を用いて、自由端横振動法により測定した薄層材料のデータからアルミニウム膜のみに起因する内部摩擦を計算した。その結果、薄膜の内部摩擦はバルクの実測値と同じオーダーではあるが、膜厚が小さくなるにしたがって減少していくことがわかった。一方、アルミニウム膜における内部摩擦の歪振幅依存性はバルクと比べて2桁も高い歪領域で観測されており、さらに膜厚が小さいほど振幅に依存する成分は高歪側に移行した。この振幅依存性データを微小塑性理論に基づいて解析することにより、10^<-9>のオーダーの塑性歪を応力の関数として算出した。これより、膜厚が小さくなると急激に塑性変形しにくくなっており、微小塑性領域における変形応力は膜厚に反比例して変化することを見いだした。このようなアルミニウム膜の変形応力に対する膜厚効果は、基板のたわみ測定から推定された巨視的な降伏強度の変化ともよく対応している。
|