本研究は、試料に高い電界を印可しながら測定できる粉末X線回析計を試作し、ペロブスカイト型強誘電体について高電界下での結晶学構造変化を明らかにすることを目的としている。試料としてマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、チタン酸鉛-ジルコン酸鉛固溶体(PZT)を選び、1mmあたり約1.5kVまでの電界を印可しながら回析強度を測定する。さらに、得られたデータを、同じ電界、温度条件で測定した、圧電定数、電界誘起歪みなどの物性値と対応する。 本年度は昨年試作した装置を用いてPMN、PZTについての測定を行った。PMNはX線的には立方晶系の結晶であり、高電界を印可しても結晶学的な対称性の低下なく結晶構造の変化は認められなかった。しかしながら、電界を印可することにより電歪効果に基づく回析角の変化が認められ、この変化から歪みを計算したところ、別に測定した電界誘起歪み量と誤差の範囲内で一致し、電歪効果による結晶の歪みをX線で初めて検出することができた。一方、PZTについても同様の測定を行ったが、やはり電荷印可による結晶構造の変化を有為な差として検出することはできなかった。PMNの場合には回析角の変化として歪み量を算出できたが、PZTでは回析角の変化は顕著ではなく、00lとh00反射の強度比の変化が認められた。PZTは正方晶系に属する強誘電体であり、00lとh00の強度比の変化は、焼結体中の強誘電的90度ドメインの回転が生じていることを示している。ドメインの回転量からそれにともなう歪み量を計算したところ、圧電歪みの実測値と極めて良い一致を示した。この90度ドメインの回転は圧電体の電界誘起歪み特性に非常に大きな影響を及ぼすことは従来まで推察されていたが、本研究により初めてそれを実証することができた。 本研究は、高電界による結晶構造の変化を明らかにすることを目的として検討を行った。結果的には構成原子の位置の変化はあまり顕著ではなく、PMNの場合には結晶格子の変形、PZTの場合には結晶の配向性の変化により、電界誘起歪など物性量が説明されることを明らかにした。
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