炭素の相図において炭素の一次元結晶カルビンの安定圧力・温度領域の確認とその領域でのカルビンの合成を目指して行った実験の結果を以下にまとめる。 (1)高圧下(1GPa〜15GPa)でのフラッシュ加熱法により黒鉛-カルビン固相間反応および一次元炭素分子からなると言われている液相からのカルビンの生成を試みたが、カルビンへ相転移の形跡は、加熱過程および回収試料の観察から認められなかった。また同圧力領域でのダイアモンドの加熱実験でもX線解析により黒鉛の生成は認められるもののカルビン相は得られなかった。 (2)真空中および低出不活性ガス中(1Pa〜20GPa)で直接通電およびアーク放電により2500K以上に加熱した黒鉛棒や生成した蒸着炭素を走査電顕やX線回析により調べたがカルビンは殆ど認められなかった。 これらの結果は、上記の生成条件においては長鎖の一次元鎖状分子が形成され得たとしても高温ゆえに鎖が分断され、またそのことにより一次元鎖が不安定になるためこれらが固相として凝集しても安定なカルビン結晶の合成は難しく、出来ても極めて微量にしか生成しないと考えられる。この意味でWhitakkerが炭素の相図に示したカルビンの安定領域の存在は疑問視されると同時にこの領域でのカルビンの定常的な大量合成の可能性は少ないと考えられる。 一方、高圧下(<15GPa)低温領域(<〜1000℃)でポリエチレンやビニル系の直鎖状高分子を熱分解して炭素化しカルビンの合成を試みた結果、光学顕微鏡観察において黒色の非晶質の炭素とともに白色透明結晶が極微量ではあるが得られている。現在この物質の同定、合成圧力・温度領域の特定と生成量の増大条件の探索を行っておりその物性測定の結果とともに、まとまり次第公表の予定である。
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