物質・材料科学技術の研究開発に求められていることの一つに革新的な物質・材料の創製がある。革新的な材料の創製には、必ずしも新材料を用いる必要はなく従来からのある汎用性材料の加工を創意工夫することで新しい機能を付加することができると考えられる。本研究は芳香環を持つ汎用性高分子材料の磁気異方性を利用して、従来の方法では得られなかった高秩序の極限構造を持つ高分子材料を作り出し、その材料の物性を評価することを目的とした。 試料として(株)ユニチカ製RODRUN LC-3000 (パラヒドロキシ 安息香酸とポリエチレンテレフタレートのランダムコポリマー)(PBT/PET)のペレットを用いた。このペレットを220℃で加圧成形後、急冷し無配向のフィルムを得た。この無配向のフィルムを磁場中で、適当な温度と時間を選び、熱処理すると、配向度の異なる液晶高分子試料が得られた。220℃以下の温度では分子鎖配向は観測されなかった。220℃以上の熱処理では、処理温度が高くなるに従い、配向は速やかに起こり配向度は1に近い値を示した。分子鎖配向と同時に結晶化の有無を知るために密度測定を行なったが、零磁場で熱処理して得られた試料の密度と磁場存在下で得られた試料の密度との間には違いが認められず、このコポリエステルは熱処理で結晶化しないことが分かった。 次に、磁場配向した高分子材料の力学物性を評価した。配向度が増加するにつれ、ヤング率は増加した。また、配向度の増加に伴い応力-歪曲線が直線的になり弾性変形領域が多くなることが分かった。一方、破断時の伸びは配向度が増加するにつれ、減少した。以上の結果は機械配向させた試料の場合とは大きく異なり、機械的配向と磁場配向試料では構造が異なることを示唆するもので、興味ある結果である。
|