ステンレス鋼に代表される高耐食性合金の耐環境性は、不働態皮膜と呼ばれる表面に生成する数十原子層以下の極めて薄い皮膜によってもたらされる。本年度の研究では、この超薄膜の水溶液中でのその場観察法としての、光電気化学応答装置を制作した。これは、不働態皮膜の半導体的性質を解析するもので、本年度は、純クロムおよび鉄-クロム合金の光電気化学応答を検討した。照射光のエネルギーに対する応答電流を分離・解析することにより、光電気化学応答を複数の相からの応答の重ね合わせとして評価する方法を開発した。これにより、クロムの不働態皮膜は2種類のバンド・ギャップを持つ多層構造となっていることを明らかにした。さらに、この多層構造は、電気化学的条件ならびに時間の経過とともに変化していくことが分かった。鉄-クロム合金に関しても同様の解析ができ、不働態皮膜は3種類の層から成り立つことが解った。これら3層から得られる光電気化学応答は時間の経過とともに減少し、このことは皮膜中の欠陥密度が時間の経過とともに減少することを意味している。また、多層構造の相対比も電気化学条件、時間の経過によって変化していくことが明らかとなった。 一方、光電子分光による皮膜組成および定量解析の結果、鉄-クロム合金の不働態皮膜は時間の経過とともに厚さが増し、さらに皮膜中のクロムの存在比が時間の経過とともに増大することが解った。この結果は光電気化学応答の結果と一致した。
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