銅マット溶錬スラグへの銅の溶解損失を定量するため、アルゴンガス気流中でスラグ-マット-溶銅間の平衡実験と、実際の溶錬条件に近い10%SO_2気流中におけるスラグとマット間の平衡実験を1300℃で行った。実験に際し、鉱石に含まれ銅製錬において副産物として回収される銀の分配挙動も同時に調べた。それらの結果を以下に示す。 1.FeO_X-CaO-SiO_2系スラグ-マット-溶銅間の平衡実験を行い、各相を構成する成分間の関係を明らかにした。この実験において、酸素、硫黄、二酸化硫黄の分圧と金属銅の活量を実測あるいは計算により求めた。実験結果から、スラグ中の硫化銅の活量係数とスラグ中の硫黄濃度の関係式を導いた。この式はスラグへの硫化銅の溶解量を推定するさい有用となる。 2.FeO_X-CaO-SiO_2系スラグとマット間の平衡実験を行ったが、実験条件下における酸素及び硫黄分圧を実測出来なかったので、熱力学的解析は十分に行えない。この測定が次年度以降の課題の一つになる。この実験で、スラグに溶解する銅の量とスラグ組成及びマット組成の関係が明らかにされた。 3.銀の分配挙動も調べたが、銀は元々酸化しにくい金属であるので、銅に最も濃縮しやすい。スラグ-マット間の分配において、銀はマットに濃縮し易いが、マット中の鉄濃度の増加に伴いスラグ中の硫黄濃度が増すと、スラグに銀が硫化溶解しやすくなる。またマット中の銅濃度が増加すると、銀はスラグ中に酸化溶解しやすくなる。この酸化溶解はスラグ中のシリカ及び酸化銅の濃度が高くなるほど著しい。
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