前年度まで、FeO_x-CaO-SiO_2系スラグと溶銅間及びスラグとマット間の平衡実験により、スラグへの銅の酸化溶解損失と、マット共存下におけるこの系のスラグに溶解する銅濃度を明らかにした。本年度は10%SO_2気流下でスラグとマットが平衡する際の系の酸素ポテンンシャルを、酸素センサーにより直接測定し、測定した酸素ポテンシャルと熱力学値により系の硫黄ポテンシャルを計算により求めた。これらのポテンシャルは銅の硫化損失と酸化損失を推定する際に必要となる。またこれまでの実験で得られたデータと銅製錬に要する熱収支を計算することにより、マット溶錬炉においてどの程度の銅品位のマットを製造したら、銅の損失及び熱的に効率的であるか推定した。その結果の概要を以下に記す。 1.10%SO_2-スラグ-マット平衡下の酸素ポテンシャル これまでSO_2気流下でスラグとマットが平衡する際の酸素ポテンシャルを実測することは、酸素センサー構成材料の浸食等実験上の難しさから出来なかった。従ってこの値は熱力学的に推定したものを利用していた。本研究において、種々の試行錯誤の上、測定することに成功した。マット中の銅品位が0%(Fe-S-O系マット)と80%(Cu-S系マット)のマットが平衡する際の酸素ポテンシャルは、推定値と実測値はほぼ一致するが、マット中の銅品位がその間にあるときは両者の間にはかなりの相違がある。この実測された酸素ポテンシャルは、スラグへの銅損失を解析するうえで重要な意味を持つ。 マット溶錬炉で製造されるマット中の銅品位の最適化 本研究で得られた、スラグへの銅損失データと銅製錬の熱収支の計算結果から、マット溶錬炉で70%Cuのマットを製造するのが、銅の損失及び熱的にみて最適であると推定される。マット溶錬炉で高い銅品位のマットを造ると転炉の負荷が低減出来、転炉から出るスラグは銅を回収するため再処理が必要であり、この再処理の必要なスラグ量が低減出来る。70%Cuより銅品位が高くなると、スラグへの銅が急激に増大する。
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