溶融Fe-NiおよびFe-Co合金と炭素質材料である黒鉛およびダイヤモンド間の接触角の測定を静滴法を用いて測定した。この系の黒鉛に対する接触角は、合金の組成による変化は非常に小さいが、合金中の炭素濃度により大きく変化し、炭素を含む場合の接触角40-50度から、炭素飽和の接触角155-160度へと増大する。この現象は黒鉛と液体合金の示す接触角が接触に至る過程、すなわち、炭素飽和の合金を黒鉛基板と接触させるか、黒鉛基板上で接触状態で炭素飽和に至るかで変化し、濡れのヒステリシスとして現れる。前進および後退接触角の測定から、この現象は黒鉛基板の表面自由エネルギーが溶融金属と接することで増大するために起こることを明らかにした。炭素の溶解度の非常に少ない溶融銅や錫の場合には、このような濡れのヒステリシス現象は出現せず、前進接触角と後退接触角の相違が無いことを明らかにした。他方、炭素質材料であるダイヤモンドを用いた場合の鉄基合金液体に対する濡れは炭素飽和の場合では、基板の表面エネルギーが黒鉛よりも大きいことを反映して、低下するが、表面の黒鉛化の進行により黒鉛と炭素飽和溶融合金とが示す接触角へと変化する事を示した。そこで、この現象を利用して、ダイヤモンドの温度の上昇に伴う表面構造の変化を調べた。アルゴン-10%水素雰囲気下における溶融錫の濡れ性はその融点より約1000Kまでは、ダイヤモンド表面のダングリングボンドに水素が結合した状態を反映して約160度の接触角を示すが、1000Kをこえると水素の脱離に伴うダイヤモンドの表面エネルギーの増加を反映して、100度まで低下する。さらに、温度を上げると1700K付近においてダイヤモンド表面の黒鉛化が始まり、基板の表面エネルギーは低下し、その結果として、接触角は150度へと上昇する。このように、濡れ現象を利用する表面構造の変化を調べる手法の有用性を明らかにした。
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