今年度は凝固膨張型元素と凝固収縮型元素の組み合わせで、共晶型の状態図をもつAl-Ge系について高圧凝固実験を行った。負荷荷重10tの条件で溶解、凝固させたAl-40at%Ge合金試料のX線回折パターンには常圧において存在するaAlとGeのピークの他に、未知のピークがみられ、それらは通常の急冷凝固により発生することが報告されている準安定相のY1(Al_2Ge)とY2(AlGe)相と同定された。高圧凝固処理から約1週間後にはそれらの高圧相のピークは幾分強くなり、その後小さくなったが、1か月後においてもそれらの高圧相の存在は認められた。1か月後の光学顕微鏡組織観察においてはAl/Geの微細な層状共晶組織の他に、淡灰色の相がみられた。この相の内部構造をEPMAとBSE像により詳細に調べた結果、BSE像においては濃度差による淡いコントラストの共晶組織が現出し、この相に隣接するαAl/Ge共晶のコントラストとの比較から、この共晶はGe濃度が比較的近いAl_2GeとAlGeの共晶であることが知られた。さらに、EPMA分析の結果から、高圧凝固試料中の共晶の平均組成は36.7at%Geで、高圧処理前の試料の共晶の平均濃度29at%Ge(平衡状態図においては28.3at%Ge)より約8at%高いことが知られた。推定高圧状態図との比較から、今回の高圧凝固試料は約3万気圧下で凝固したものと考えられた。この圧力は予想圧の約5万気圧より小さいが、これは液体の加圧においてリ-クが生じたためと思われる。以上のように、高圧凝固においても通常の急冷凝固において現われる準安定相が得られることは高圧の負荷が冷却速度の増加と同様の効果をもつことを示唆している。本系においては、冷却速度の増加とともに、準安定相→過飽和固溶体→アモルファスが得られることが報告されており、高圧凝固法によりアモルファスを得るためには、さらに高い圧力が必要であることが予想された。
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