前年度までの実験では、ヘリウム導入量を調節することで、反応容器内におけるC_<60>の単独合成の可能性が示唆された。しかし、その後の検討により、反応容器内部でC_<60>のみが生成するのと考えるのには無理があり、また紫外吸収スペクトルの結果は、C_<70>の存在を示唆していることが分かった。これを踏まえて今年度は、前年度および前々年度の結果を見直すため、分析法の検討を行った。その結果、飛行時間型質量分析計に導入する試料の加熱方法を改良することによって、C_<60>と低次の炭素クラスターのピークに加えて、C_<70>のスペクトルが得られた。この方法によって以前の試料をすべて再分析した。さらに本年度は、実験装置内の捕集器を4つの部分に分割し、各部分における捕集率を求めた。本研究では、従来の研究に比べてはるかに大量のHeガスを用いているが、この結果、C_<60>に対して従来10%程度であったC_<70>の存在比が、本実験では20〜50%に達した。これは、容器内のガス流れによって、未捕集のC_<60>が増加したためであると考えられる。容易内ガス流れを計算によって求め、最適装置設計の指針を得た。 また、拡大アーク反応装置の特徴である、液体導入機構を用いて、黒鉛以外の炭素源として、トルエンの利用を試みた。また、Laを内包するフラーレンの合成のため、2-エチルヘキサン酸ランタンのトルエン溶液(La:7%)を同様に吹き込んで実験を行った。前者では、長時間の実験が不可能であったため、合成の可能性についての結論は得られなかった。また、後者の実験では、安定なアークを保持することが困難であり、さらに大容量の実験設備が必要であるとの結論を得た。
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