硫酸カリウム結晶の成長速度に対するクロム不純物の影響を実験的に調べ、錯体化学的な検討を加えた。先ず、塩化クロムを不純物として添加した場合の成長速度をpHを変えて測定した。特徴的な結果としては、不純物効果がpHの履歴に大きく依存したことである。たとえば、クロムを1ppm添加しpH=5で、温度38℃過冷却度6℃の条件下で硫酸カリウム結晶を成長させた場合、pH=5に長時間保持した後の溶液の場合は、成長は完全に抑制されたが、pH=5に調整直後の溶液の場合は、抑制効果は全く見られず、結晶は純粋系と同じ速度で成長した。これは、ある特定の化学的形態をとったとき始めて不純物効果を示すクロム錯体が、その形態をとるのにある時間が必要であることを示唆している。もう一つの興味ある結果は、クロム不純物の成長抑制作用において数10分の時間にわたる非定常性が見られたことである。すなわち、まず純粋系で結晶成長させておきそこにクロム不純物を添加すると、その成長抑制効果は始めは全く現れなかったが、数10分後には速度は徐々に減少し始めやがて完全に成長が止まってしまった。この現象もやはり、先に述べた特定の化学的形態をもった錯体が形成されるのにある一定の時間が必要であることを示唆している。以上のように、結晶成長に対するクロムの不純物作用をpH条件を変えて実験的に検討し、それを錯体化学的立場から考察した研究は、今まで見られない。その意味で、本研究は(従来メカニズムが明確に説明されて来なかった)結晶成長に対する不純物効果の説明に、一つの解明の糸口を与えるものと考えられる。現在、本研究の一部を国際的な学術雑誌に投稿すべく準備中である。
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