本研究は油脂を唯一の炭素源として抗生物質であるセファマイシンCの効率的発酵生産を目的とし、次のような研究結果を得ている。 1.油脂として大豆油を選び、抗生物質の発酵生産に適した培地組成を開発して大豆油の消費を向上させることによりセファマイシンCの生産を2倍向上させた。 2.大豆油の組成の約9割が脂肪酸が占めているため、代謝産物として培地に脂肪酸が蓄積される。特に1g/l以下のリノール酸及びリノレン酸によって放線菌の増殖及び抗生物質の生産は強く阻害されることが明らかとなった。従って、本研究では突然変異によって親株よりリノール酸耐性が3倍高い放線菌を獲得することによって抗生物質の生産性を親株より1.3倍向上させた。 3.大豆油は疎水性であることから溶解度が低いし、微生物の消費しにくい基質である。しかし、Spectromyces sp.P6621培養の場合、大豆油は均一に培地に懸濁されることからなんらかの界面活性剤の存在が推定できる。また、菌体内外のリパーゼの活性が認められ、大豆油は菌体内・外で加水分解され、菌体外で分解された脂肪酸及びグリセロールは放線菌によって消費され、菌体と抗生物質を生産すると考えられる。また菌体内大豆油の存在は薄層クロマトグラフィによって確認されたことから一部の大豆油は菌体の内部に運ばれ、菌体内で加水分解されると考えられる。このようなメカニズムによって大豆油の消費から抗生物質の生産までモデル化し、シミュレーションによって大豆油の消費、菌体の増殖、抗生物質の生産および脂肪酸の蓄積を動力学的に説明することができた。
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