新規物質の分解に関与する遺伝子が如何に発生するかという問題を理解するには、進化の現場を実際に押さえることが極めて有効である。私達はすでにPseudomonas aeruginosaPAO株から人工物質ナイロンオリゴマーを分解する菌株を実験室内進化で取得し、その分子機構を解析している。本研究では、この様な微生物の持つ柔軟な適応力を環境汚染の問題物質へ適用し、進化工学的手法を新たな微生物の育種技術として確立することを目標として、化石燃料中の問題物質とされている含硫黄芳香属化合物、ジベンゾチオフェン、含窒素芳香族化合物カルバゾールに対する分解能力を実験室条件下で発生させることを計画した。材料として、遺伝解析の系が確立されている2株、Pseudomonas aeruginosa PAO及び大腸菌K12株を使用し、基質としては、ジベンゾチオフェン、カルバゾールをモデル化合物として選択した。現在、生育能は低いが、ジベンゾチオフェンを硫黄源として生育する大腸菌、カルバゾールを窒素源として生育するPAO株を取得している。ジベンゾチオフェン代謝株はベンゾチオフェン、ジベンゾフェノンなど数種類の代謝能を、カルバゾール代謝株はトリプトファン代謝能を併せて獲得していた。これは、ある一つの化合物の生育能で選択すると、これとは独立した複数の基質の分解活性を同時に獲得していることを意味する。同様の操作を実際の石炭抽出物へ適用し、さらにタンパク質レベルでの解析する部分が今後の課題として残ったが、今回得られた結果は、石炭の様なヘテロな化合物に新たに能力を付与するうえで、進化工学的手法が適用できる可能性を示すものである。
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