プラズマ重合法を用いて作製した有機薄膜に機能付与するためには、種々の官能基の導入を行うことが必要である。本研究ではイオン交換能を取り上げ、その機能の付与のために、プラズマ反応の素過程からの解析をその場質量分析と分子軌道法計算を用いて行った。有機薄膜のバックボーンとなる有機物のモノマーとイオン交換能を付加するためのモノマーを同時に反応チャンバー内に導入しプラズマ重合を行い種々の膜を作製した。ここで、官能基を付与するためのモノマーとしてベンゼンスルホニルフルオライドおよびクロライドを用いて研究を行った。この両者の化学的な構造は類似しているが、フルオライドとクロライドの違いがあり、このことがプラズマ中での両者のモノマーの素過程の違いを生じさせる可能性がある。分子軌道法を用いた理論的な解析から、両者が電子により攻撃を受け活性化する場合、安定な活性種に違いがあることが示唆された。フルオライドを用いた場合には、スルホンが安定に導入されるが、クロライドではスルホンが分解を受ける可能性が示唆された。(スルホンは簡単に加水分解によりイオン交換能を有するスルホン酸基に変換できる。)この点についてその場質量分析を用いて活性種の分析を実際に行った結果、分子軌道法による計算結果とほぼ対応する化学種の検出が行えた。また、作製できた薄膜のイオン交換能を示すイオン輸率と膜抵抗を測定した結果、輸率が約0.99で抵抗が10^<-4>Scm^<-1>程度の膜が作製できたことがわかった。また、このような特性はプラズマの印加電力やモノマーの流量といったプラズマパラメーターにも依存することがわかった。最も優れた条件下で、プラズマ重合により作製した薄膜は、非常に薄く膜厚を考慮した抵抗値は十分に小さい値であり、既存の膜と比較しても遜色のない性能を有していることがわかった。
|