シクロデキストリン(CD)は、水溶液においてその疎水性空洞内に有機化合物を取り込み、包接錯体を形成する事が知られている。本研究では、芳香族電解質水溶液のパルスラジオリシスをCD存在下で行い、水和電子による一電子還元反応および還元体からの電子移動反応の包接錯体形成による制御ならびに会合状態の検討と会合定数の測定を試みた。4-ビフェニルカルボン酸および4-ビフェニル酢酸はβ-CDと1:1包接錯体を形成し、一電子還元反応の速度定数は顕著に減少した。また、前者はα-CDと1:2錯体を形成するが、後者はメチレンによる立体障害により1:2錯体を形成しない事が明らかとなった。1-ピレンスルホン酸およびカルボン酸とγ-CDとの2:2包接錯体の還元体は不安定であり、速やかに1:1錯体に解離あるいは構造変化する事が過渡吸収スペクトルより明らかとなった。ビフェニルおよびピレン誘導体の混合溶液では、β-およびγ-CDの添加により選択的な一電子還元反応が可能となった。ビフェニル誘導体の還元体からのピレン誘導体への電子移動反応の速度定数はγ-CDの添加により一桁以上低下した。この錯体形成による反応速度の変化を利用して、ビフェニル誘導体とβ-CDとの1:1包接錯体の会合定数を決定した。以上の結果から、CDは種々の芳香族電解質の一電子還元反応や電子移動反応を効果的に制御し、その結果を用いてCD包接錯体の会合定数の測定が可能である事が明らかとなった。さらに、過渡吸収スペクトルの測定により、CD包接錯体の還元体の安定性についても知見が得られた。
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