石炭液化油は芳香族構造からなる複雑な成分の混合物であり、この構成成分の解明は、液化反応プロセスにとって重要であるばかりでなく、芳香族化学薬品として有効利用する観点からも極めて重要である。 本研究者はこれまで、石炭液化油の化学構造を種々の機器スペクトル分析を適用して、1)平均的構造解析 2)化合物タイプとこの同族体の分布 について解析を進めて来た。更に、 3)構成成分の同定 に研究を進展させ、GC-MSによる個々の成分の帰属を行って来た。しかし、高分解能キャピラリーカラムGCを持ってでも液化油の分離が充分なものとは言えず、MSスペクトルによる構造決定に当たり障害となった。 GC-MS-MS分析はGC分離と第一段MSにおける質量分離を組み合わせる事によって、石炭液化油のほぼ完全な分離が期待されるので、GC-MSの問題点を解決できる画期的な手法となり得るものである。本研究では赤平炭液化オイルをHPLCによって化合物クラスの1環(Fr-M)、2環(Fr-D)、3、4環芳香族類(Fr-T)に分別したフラクションに対して、Z数による化合物タイプ同族体に分類、整理して、GC-MS-MSによるMSスペクトルの収集、ファイル化を目標としている。 1環芳香族類(Fr-M)について、化合物タイプ(Z=-6、-8、-10)同族体系列に属する各分子量に相当するマスクロマトグラムは、同じ分子量を持つ異性体の各成文によるピークである。GC-MS-MS分析のドウタ-スキャンモードで測定したこの各異性体成分のMSスペクトルは、ほぼ単一成分から由来するドウタ-イオンスペクトルと考えられ、このスペクトルの取得に成功する事ができた。Fr-D、T(2環、3、4環芳香族類)の化合物タイプ同族体系列を含めて、このMSスペクトルは貴重なる資料となる。
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