研究概要 |
高性能メソフェーズピッチを原料とする炭素繊維は次世代の重要な材料として注目されている。その製造方法はほぼ確立されているものの、コストと性能とのバランスに問題点がある。製造コストを押し上げている要因の一つに紡糸直後のピッチ繊維の機械的強度が非常に低いことが挙げられる。これはディスコティック液状のメソフェーズピッチは、構成分子が主に円盤状の芳香族炭化水素からなるためである。 本年度は塩化アルミニウムを触媒としてキノリン及びイソキノリンを重合し添加剤を合成することを試みた。塩化アルミニウム存在下、280℃で4時間あるいは300℃で8時間反応させピッチを合成した。イソキノリン‐ピッチ(IQP)はキノリン‐ピッチ(QP)よりピッチ収率が50%と低かった。QPのH/Cは原料より少し減少したが、N/Cは原料とほぼ同じであり、重合反応中、脱窒素はほとんど起こらなかったと思われる。一方、IQPは重合過程中、多くの窒素が脱離した。得られたQP,IQPはいずれも等方性ピッチであった。 FE‐Massにより分子量分布を調べたところ、QP中の分子量はm/z256、383に最大強度をもち、その分布はm/z149〜900に分布おり、主要ピークはm/z256,383,516,771及び897であった。これらのピークはそれぞれキノリンの2,3,4,5,6,7量体に帰属される。そして、これらは分子量127の一定間隔で観察された。これは、ルイス酸とのカチオン重合においてピリジンリングの開裂がほとんど進行していないことを示す。IQP中のBS成分では、3量体に帰属されるm/z383の最大ピークを持ち、m/z128〜870の分布を持っている。IQP1のBS成分では、256,383,510にかなり強いピークが観測され、これはそれぞれ2、3及び4量体に帰属される。これらのピッチはメソフェーズピッチに良く溶解し、分子量も大きいことから、添加剤として適切であると推定される。
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