研究概要 |
高性能メソフェーズピッチを原料とする炭素繊維は次世代の重要な材料として注目されている。その製造方法はほぼ確立されているものの、コストと性能とのバランスに問題点がある。製造コストを押し上げている要因の一つに紡糸直後のピッチ繊維の機械的強度が非常に低いことが挙げられる。これはディスコティック液晶のメソフェーズピッチは、構成分子が主に円盤状の芳香族炭化水素からなるためである。メソフェーズピッチの紡糸温度域でも安定な耐熱性高分子は、メソフェーズピッチへ溶解し、分子アロイを形成すると考えられる。こうした高分子をメソフェーズピッチに混合し紡糸できれば、ピッチ繊維の強度のみならず、不融化反応性、ひいては炭素繊維の物性が改善されると期待される。 本研究では、耐熱性高分子であるポリフェニレンオキサイド(PPO、m.p.250℃)を添加剤として選択しその選択効果を調べた。酸化不融化前のピッチ繊維の強度を向上させるために、5〜10wt%のポリフェニレンオキサイド(PPO)を、ピッチ系炭素繊維前駆体である石油系メソフェーズピッチに添加した。PPOは溶融するが、350℃でもメソフェーズピッチにほとんど溶けない。しかし、混合ピッチから10μm程度の繊維が紡糸でき、その繊維内部に1μm以下の繊維状のPPOがピッチ繊維軸に沿って配向し、均一に分散していた。こうしたピッチ繊維内の微細なPPO繊維によりピッチ繊維の強度が向上した。250℃での酸化、1300℃での炭化後にでも繊維の表面部では細い繊維状物が、観察されたが、繊維中心部では認められなかった。このことは、PPOが、酸化の影響の小さい繊維中心のメソフェーズピッチ部分と共炭化していることを示している。炭化後の酸化反応性と機械的強度は、原料ピッチのそれと比較してわずかに低下した。本年度は塩化アルミニウムを触媒としてキノリン及びイソキノリンを重合し添加剤を合成することを試みた。塩化アルミニウム存在下、280℃で4時間あるいは300℃で8時間反応させピッチを合成した。イソキノリン-ピッチ(IQP)はキノリン-ピッチ(QP)よりピッチ収率が50%と低かった。QPのH/Cは原料より少し減少したが、N/Cは原料とほぼ同じであり、重合反応中、脱窒素はほとんど起こらなかったと思われる。一方、IQPは重合過程中、多くの窒素が脱離した。得られたQP,IQPはいずれも等方性であった。これらの合成ピッチは分子量も大きいことから、添加剤として適切であると推定される。
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