水素結合を持つ高分子たとえばナイロン等は、分子鎖間に異方的結合力を持つため結晶の弾性率や電気的性質にも大きな異方性を生じる。この分子鎖間水素結合の構造、位置等は、ほとんど高分子の一次構造により決定されると言って良い。従って、炭素原子一つ変化させることで、水素結合の位置が変わり極性、非極性の制御が可能となる。強誘電体とは自発分極を持ち(極性結晶)それが外部電場により反転できる物質をいうが、水素結合性高分子の多くが極性構造を持つことが可能であり、もし電場により結合の再配列が起こるような環境さえ作ってやれば強誘電構造を実現できる。 我々は従来の奇数ナイロン以外の幾つかの水素結合を有する高分子において、この強誘電状態を実現した。この際、1)乱れた水素結合、2)電界による水素結合の形成、3)不純物による安定化という3つのキーワードが重要であることを見いだしたので、以下に物質の特長とともに紹介する。 1)AB型ナイロン:ナイロン39、ナイロン59、ナイロン79のように奇数炭素をもつものを中心に研究を行った結果、ABの数の比の大きい(ナイロン39のように)ものや、三元ランダム共重合体では熱処理により結晶の乱れがかえって大きくなり電界に対する応答性の良くなり、強誘電的となった。 2)ポリウレタン:脂肪族ジイソシアナ-トと直鎖状グリコースから合成される直鎖状ポリウレタンは、回転自由度の大きいエーテル結合があり、ナイロンに比べ融点、ガラス転移温度は低くなる。37ポリウレタンと56ポリウレタンは強誘電的分極反転を示すが、これはポリウレタン結晶中で電界による水素結合の再配列が、不安定な中間状態を経由して起こる。 3)ポリユリア・ポリチオユリア:ともに非常に強い水素結合性の高分子である。ポリユリアは結晶性であり、ポリチオユリアは非常に結晶性の低い高分子であるが明確なヒステリシス曲線を示し、焦電率もガラス転移温度以上まで安定であった。以上のように水素結合性高分子の多くは強誘電挙動を示すことがわかった。
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