ミオグロビンを電極上に積層固定し、これをさらにイオン伝導性高分子で被覆した系について、電極とミオグロビン間、および積層ミオグロビン間の電子移動過程を詳細に解析し、さらに促進させる方法論を開発することを研究目的とした。 ミオグロビン(Mb)の表面を末端活性化ポリエーテルを用いて修飾した一連の試料(PEO-Mb)を合成し、イオン伝導性高分子との親和性を高めた。このPEO-MbはPEOオリゴマーに変性せずに溶解でき、電位印加により可逆的に酸化還元できることをCDスペクトルと可視スペクトルから確認した。これをITOガラス電極上に積層固定し、含塩ポリエーテルで被覆した。電位印加に伴う可視スペクトル変化及び、反応電流値変化から反応速度定数を算出した。その結果、電極と積層第1層のPEO-Mbとの電子移動は速く、掃引速度が10〜1000mV/s程度でも電子移動可能であった。一方、それ以下の掃引速度では積層PEO-Mb間の電子移動も観測できた。積層PEO-Mbへの電子移動は、ITOガラス電極の作成法、高分子溶媒のPEO分子量、支持塩種、温度、修飾PEO鎖長、PEO修飾率等に著しく依存していることを明らかにした。表面抵抗が低いITO電極を用い、低分子量のPEOオリゴマーに塩化カリウムを支持塩として0.5M溶解させた系に、分子量2000のPEOを7本結合させたPEO-Mbを用いることで、最も高速の電子移動が実現できた。次に、電極と積層PEO-Mb間に電子伝導性高分子であるポリピロールを電解酸化重合法で導入し、電子移動の加速を試みたが、いずれの条件でも加速されなかった。また、Mbの活性中心であるヘムにポリピロールを結合させ、再構成させた導電性ミオグロビンを得ようと試みたが、導電性を保ったままのヘムを得ることができなかった。しかしながら、前述の最適条件探索の項で、温度の影響を詳細に調べていたところ、昇温に伴い加速が観測され、100℃以上でも電子移動可能であることがわかった。この驚異的な耐熱性は水中では観測されず、高分子溶媒中でのみ発現される特性である。
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