研究概要 |
本研究では、複屈折と応力を同時に測定できる装置を作製し、ゾーン延伸ポリエチレンテレフタレート繊維の複屈折と応力の温度依存性を測定し、延伸過程で生ずる配向結晶化について流動光学(rheo-optics)の立場から検討した。ここでは、延伸温度(Td)はガラス転移温度(Tg)付近の70℃及び90℃とし、各Tdで、繊維を延伸倍率(λ)1.5,2.5及び3.5倍にゾーン延伸した。 1)Td=70℃でλ=1.5倍にゾーン延伸した繊維の複屈折と応力の温度依存性では、複屈折はTg付近まではほぼ一定であるが、Tg以上では減少して配向緩和が起きる。一方、応力は昇温とともに急速に減少する。また、結晶化度の変化及び広角X線回折写真から、測定前では結晶生成が認められないが、測定後には無配向の結晶が生成していることが分かった。 2)Td=70℃でλ=2.5倍にゾーン延伸した繊維では、複屈折はTg付近まではほぼ一定であるが、Tg以上になると増加する。この増加は配向した結晶核が延伸軸方向に成長していることを示唆する。一方、応力は55℃付近まで減少するが、60℃から僅かに増加し、Tg以上になると再び減少する。このTg以上での応力の減少は複屈折の増加と対応していることから、結晶生成に基づく繊維の自発伸長に起因すると考えられる。また、測定前の広角X線回折写真では結晶性の回折は観察されないが、測定後の写真では配向した結晶が確認された。これは、λ=2.5倍では配向結晶化により結晶は生成しないが、配向した結晶核が生成していることを示唆する。 3)Td=70℃でλ=3.5倍にゾーン延伸した繊維では、Tg以上で複屈折が増加することから、配向結晶化で生成した微結晶の繊維軸方向への成長と、自発伸長に基づく応力緩和が認められた。 以上の結果より、延伸過程で生ずる配向結晶化とそれに伴う応力変化との関係が明らかになった。
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