本研究では、界面物性が表裏両面で相違する単分子膜を基盤とする分子集合体の特徴を解明すると共に、例えばこの膜で特定蛋白質を内包した機能小胞体の実現を研究目的とする。 リトコール酸の両端に長鎖を結合させ、更にその先に親水基を結合させた両親媒性分子を新規に合成、この分子集合体について解析を行ったところ、単分子膜構造が観測された。その安定度を、光散乱測定から得られた凝集や融合による粒径分布の変化、あるいは溶液粘度の変化から評価したところ、界面物性と関連して高い分散安定度が確認された。更に分子配向度を^1H-NMRおよび蛍光偏光解消法にて測定したところ、単分子膜中央部の運動の抑制、および相転移温度以上での親水部付近の分子運動性の大きな増大が具体的に観測された。そして、膜自体の分子透過度は二分子膜よりも大きい結果から、リトコール酸の立体構造が膜を乱している可能性が高い。 更に長鎖の長さを変化させた一連のリトコール酸誘導体を合成、リン酸質二分子膜に導入した時の膜厚との相違が分子充填状態に及ぼす影響を分子配向度から解析した。その結果、膜厚が分子鎖長よりも短い系にて大きく分子充填状態が乱れることが明らかとなった。 リン脂質型両親媒性分子を用いて高濃度ヘモグロビンを内包した単分子膜小胞体を構築した。小胞体構造は内相にヘモグロビンを存在させることにより確実に安定化され、粒径、粘度、膜透過性などにおいて大きな問題を認めなかった。このヘモグロビン小胞体は酸素を可逆的に結合する酸素運搬体として機能することを、酸素分圧に対する酸素化度の測定、および一酸化炭素から酸素にヘモグロビンの配位子を交換する実験から明らかにした。小胞体内のヘモグロビンは2価から3価に自動酸化されるが、膜を透過できない還元剤を用い、膜を介したヘモグロビンの還元挙動の解析から膜を隔てた電子移動に関する知見が得られた。
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