単分子膜による高次構造制御の方法を水面展開・累積可能なイオン性ポリペプチド誘導体に適用し、ポリペプチドセグメントを2次元界面に凝縮・配列させることに着目し、これにより界面で生じる様々な構造上の転移を分子レベルで人為的に制御することを目的として研究を行い、以下に述べる成果を得た。 1.イオン性ポリペプチドとしてポリ(L-グルタミン酸)を選んだ。単分子膜形成能を与えるためにポリ(L-グルタミン酸)セグメントの片末端に2本の長鎖アルキル基を導入した両親媒性分子(1n)を設計し、セグメント鎖長(n)をかえた系統的な合成に成功した。 2.これら1nの界面単分子膜特性を表面圧-面積曲線を測定することにより検討した。その結果、1nは安定な凝縮相をもつ単分子膜を形成すること、またセグメント鎖長(n)の増大とともに大きな分子占有面積を与えることを明らかにした。 3.次いで、異なる表面圧(異なる相状態)で1n単分子膜よりなる累積膜を調製し、ポリ(L-グルタミン酸)セグメントの二次構造をCDならびにFT-IRスペクトルにより検討した。一般にポリ(L-グルタミン酸)はalpha-ヘリックスが安定なポリペプチドとされている。ところが、単分子膜では低い表面圧では主にalpha-ヘリックス構造を形成するが、中間転移相から凝縮相に単分子膜が圧縮されるとbeta-シート構造を形成するという興味深い事実を見いだした。しかも一旦形成されたbeta-構造はかなり安定であることも明らかにした。このように、単分子膜の相状態を変えることにより、二次構造が制御できることはポリペプチドの高次構造構築のためのモデルとしも重要であり、また特異な二次構造転移を利用した分子間の相互作用を知る上でも興味深い系であろう。
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