供用中の鋼構造物の改造、あるいは、補修、補強などを溶接により行う場合、実働荷重下の溶接となる。この場合、海洋構造物などでは、運転を一部あるいは全面停止する、また、既設橋梁では、交通規制などを行い施工するのが一般的である。ところで、可能な限り運転の停止、あるいは交通規制をすることなしに、改造、補修、補強、などできれば、その社会的、経済的効果に与える影響は多大であろうと考えられる。これが本研究の目的である。 平成5年度において、繰り返し荷重作用下で生じる高温割れの感受性を評価するための力学的指標とその評価方法の確立が急務であることを指摘した。 本年度は、溶接施工可否判定システムが構築できるか否かを左右する本質的な問題となる高温割れ感受性を評価する力学的指標、すなわち、溶接前に容易に計測できるルートギャップの開口変位△δが割れを整理する実用的な力学的指標と成り得るか否かを集中的かつ詳細に検討した。結果によれば、実働繰り返し荷重下で生じる高温割れに対する力学的指標として△δを用いることの妥当性が明らかになった。また、本実験で使用した溶接金属の高温割れ発生限界値△δ_<cr>を求めることができた。 上述の成果を基本として、△δを力学的指標とする高温割れ発生・防止条件の評価式を提案すると共に、溶接施工可否判定システム構築のためのアルゴリズムを決定した。これに従い、基礎となる溶接施工可否判定システムの構築を試みた。そして、供用下の実橋梁の補修、補強工事に本システムを適用し、その妥当性を検討した。
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