土壌中における稲の冠根の伸長方向をバスケット法により調査した。ベンガル地方の在来品種および日本水稲品種に比較してインドネシアの在来品種では、土壌表面近くに太い冠根が多く分布していた。この傾向は発芽直後の冠根の伸長方向に認められる傾向と一致した。したがって、発芽直後における冠根の伸長方向は土壌中の根系構造の指標となることが示唆された。次に、タイ・ラオスで採集したきた栽培イネに関して播種直後の冠根の伸長方向を指標として根系形態を調査した。東南アジアの焼き畑で栽培されている陸稲の冠根はインドネシアの在来品種と同様に地表面付近に分布していることが分かった。さらに、北ラオスの焼き畑に栽培されている陸稲の根と地表面近くに分布していることが観察された。次に、インドネシアの在来イネ品種の根は日本イネ品種に比較して重力屈性の感受性よりも酸素屈性の感受性が強いことが示唆された。この形質が水田土壌表面に太い冠根が現れる要因となっていると考えられた。インドネシアのイネ品種と日本水稲品種を交配して後代F_2およびF_3を用いて遺伝的背景を調べた。その結果、根の伸長方向を決定する形質は複数の遺伝子が関与していること、重力屈性よりも酸素屈性の感受性が強い形質は優性であることが示唆された。ここに示した根系構造の形質発現に関する研究結果は、QTL解析などにより遺伝座、遺伝子の数など検討を加える必要がある。しかし、これまで検討されてこなかったイネの根系構造の育種に情報をもたらすものと考えられる。
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