本研究は、欠失地図作製によってパンコムギの物理的遺伝子地図を構築することを目的とした。前年度までにパンコムギの21種類の染色体すべてにわたって436の欠失染色体を同定し、それらの欠失系統を育成してきた。ところが、これらの欠失系統には、背景の染色体構成が異常なもの、欠失染色体自体に疑問のあるものが含まれている恐れがあった。そこで、本年度は、以下のような研究を行った。(1)細胞学的調査で背景の染色体構成に転座が認められた欠失系統についての転座を除くための選抜及び交配:転座ヘテロ系統では自家受精子孫から転座染色体のない個体を選抜し、転座ホモ系統には純系Chinese Springを交配した。(2)欠失染色体の細胞学的データの取りまとめ及びパンコムギ欠失染色体アトラスの作成:各欠失染色体の顕微鏡写真を撮影し、5-10枚の写真で染色体腕の比を計測して、欠失割合を算出して、欠失点を示す模式一覧図を作成した。同時に、全欠失染色体の見本写真も作成した。(3)欠失系統の減数分裂を調査し、欠失以外の構造異常がないことの確認:第5同祖群の欠失系統について、純系Chinese Springを交配した欠失ヘテロ個体の花粉母細胞の減数分裂を調査した結果、欠失部分の転座を示唆する多価染色体は観察されなかった。(4)欠失系統の形態形質の調査:第5同祖群の欠失ホモ系統について、実験計画法に基づいて形質調査を行った結果、どの染色体でも長腕の半分以上が欠失すると生育力、捻性が極端に悪くなるが、短腕の欠失はこれらにあまり影響がないことが明らかになた。
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