本研究では、これまで糞虫類の野外調査があまり行われていない東北地方の放牧地で季節的な糞の消失の実態を明らかし、糞虫類の種毎の固体数調査により糞の埋め込み分解能力の優れた種を特定するための野外調査を行った。また、これらの糞虫類を供試昆虫に各種糞虫類の糞の埋め込み能力の種間差と糞の埋め込み量におよぼす出現時期の違いの種内差を明らかにする要因実験を行った。 その結果、採集された糞虫類成虫の総個体数は、1科3属10種7、364であった。各月の優占種としては6月はオオマグソコガネ、7月はツノコガネ、8月はカドマルエンマコガネ、9月と10月はフトカドエンマコガネと、季節により優占種が異なることが明らかとなった。放牧地に設置した糞の消失率は6、7、10月に高く、8、9月には低かった。特に、糞の埋め込み量の多い種としては、オオマグソコガネとオオフタホシマグソコガネがあり、これ以外の種の埋め込み量は少なかった。また、同一種でも出現時期により糞の消失への影響は異なり、繁殖期以外でも糞の消失には関与していた。特に越冬前の成虫では糞の埋め込みは行わないが、これらの成虫により糞はかなり消失されていた。このような糞の消失におよぼす要因としては、糞に飛来した成虫個体数、糞内での滞在期間、繁殖期の糞の埋め込み量が重要であり、これらの要因の相互作用により放牧地での糞の消失量が決定されていることが明らかとなった。今回の実験では明らかにできなかったが、初夏の糞消失には小型種のフチケマグソコガネの幼虫が関与している可能性が示唆された。 東北地方の放牧地では糞の消失に季節性があり初夏と秋には消失率が高いが盛夏には糞が放牧地に残り、これらの結果は糞虫類の活動にかなり依存し、これらの糞消失には糞埋め込みの種間差と出現時期の差による種内差が影響していることが明らかになった。
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