最近、ウイルスの細胞間の移行がウイルス自身がコードするタンパク質(移行タンパク質)により支配されていることが示されたが、この移行タンパク質の具体的な働きとウイルスの細胞間移行機構については、ほどんど明らかにされていない。本研究では、このウイルスの細胞間移行について検討し、次の結果を得た。 1.タバコモザイクウイスル(TMV)の移行タンパク質は単鎖のRNA及びDNAに特異的に結合することが、in vitroの実験により示されている。したがって、細胞内においてもTMV-RNAと移行タンパク質が結合することによりウイルスの細胞間移行が行われている可能性が考えられるが実験的証拠はまだ得られていない。そこで本実験ではin situハイブリダイゼーション法によりTMV-RNAを検出する方法を開発し、この点について検討しようとした。その結果、ジコキシゲニン標識RNAプローブを作製し、TMV感染プロトプラストにおけるTMV-RNAを検出することができた。現在、これを電顕レベルに適用し、ウイルスRNAと移行タンパク質が細胞内で結合しているかを調べることから、ウイルスの細胞間移行について検討することを進めている。 2.細胞の原形質流動がウイルスの細胞間移行に関与しているかを調べるためTMVをタバコ葉デイスクの上側表皮に接種し、これをサイトカラシンBで処理し、下側表皮へのTMVの移行を調べたところ、その移行が阻害された。この結果は、サイトカラシンBが細胞の原形質流動を特異的に阻害するので、細胞の原形質流動がウイルスの細胞間移行に関与していると考えられた。 3.前年度に実験によりジャガイモXウイルス(PVX)の移行タンパク質(25Kタンパク質)が細胞内の封入体に局在することをプロテインA-金コロイド法により明らかにしたが、本年度は、この25Kタンパク質の抗体を用いて、磁気分離法によりこの封入体を分離する方法を開発した。
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