熱帯と温帯でトビイロウンカの発生動態を比較分析した結果、この種の個体群の基本特性が、地域的に、また昨期によって著しい変異を示すことが明らかになった。 1.ピーク世代の密度レベル:熱帯の稲同期栽培地帯の第一作期では、日本などの温帯地方の個体群で示されたように、水田内でのウンカの密度増加率が高いため、ピーク世代の密度レベル(平均的密度)は、周年栽培地帯や同期栽培地帯の第二作期と比べ著しく高くなる。こうした密度増加率とそれに伴うピーク世代の密度レベルの相違を決める基本的要因として、天敵生物、特に卵寄生蜂の作用が重要なことが示された。 2.ピーク世代の密度変動:同期栽培地帯の第一作期では、温帯個体群と同様、ピーク世代密度の場所間の変動は、初期の飛来密度によってほぼ決まることが示された。このことは、初期密度によるピーク世代密度の予測が可能なことを示している。他方、周年栽培地帯や、同期栽培地帯の第二作期では、飛来後の水田内での密度増加率が、場所間で大きく変動するため、初期密度とピーク世代密度の間に高い相関は認められなかった。密度増加率の場所間での変動を決める要因として、水田内の水利条件(降水量、灌漑など)の重要性が示唆された。 3.密度調整機構:同期栽培地帯の第一作期では、温帯個体群と同様、ピーク世代の密度レベルが高いため、作期の後半に長翅成虫の移出や幼虫死亡の増大など種内機構による密度調整過程の作用が検出された。他方、周年栽培地帯や同期栽培地帯の第二作期では、初期の比較的低い密度で、長翅成虫による水田間の密度依存的な移動分散による調節過程の存在が認められ、このことは、温帯個体群や同期栽培地帯などの比較的長距離移動を伴う一時的個体群とは異なり、定着個体群としての特徴を示していると思われる。
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