植物は病原菌の感染により、生体防御のためある特定のキチナーゼを誘導発現する。この病原菌に特異的なキチナーゼの性質とその誘導機構が明らかになれば、植物の生体防御機構が解明され、その結果病原菌抵抗性の植物の作製が期待される。本研究では、ヤマイモから病原菌特異的キチナーゼの遺伝子解析を行い、その病原菌特異的キチナーゼの特性について調べ、さらに、この遺伝子を導入したタバコ植物を作製した。 (1)病原菌特異的キチナーゼの塩基配列 ヤマイモカルスから病原菌(Fusarium oxysporum)の接触により誘導されたmRNAからcDNAライブラリーを作製した。一方、この病原菌特異的キチナーゼのアミノ酸配列を一部解明し、その配列を利用し作製したプライマーを用いてcDNAライブラリーを鋳型にしてPCR法により病原菌特異的キチナーゼのcDNAを増幅した。さらにゲノムDNAライブラリーを作製した。両ライブラリーの中から病原菌特異的キチナーゼのcDNAとDNAをPCR法で増幅したcDNAでスクリーニングし、塩基配列をディデオキシ法で解析した。その結果、病原菌特異的キチナーゼは、これまでのもの(クラスI〜III)とは異なる新しいクラス(IV)に属し、N末端側に活性中心の他にもう一つのキチン結合領域を有することを明らかにした。 (2)病原菌特異的キチナーゼの酵素特性 病原菌特異的キチナーゼの酵素反応特性の一つとして、溶菌活性が強く、至適pHが3.5と8の2ヵ所にあり、キネテイックス解析で基質阻害が見られることなどの他、キチンを加水分解反応時に他のキチン分解酵素とは異なりαアノマーの生成物を生じることが分かった。 (3)病原菌特異的キチナーゼ遺伝子をを導入したトランスジェニック植物作製 病原菌特異的キチナーゼのN末端キチン結合領域の役割を明らかにするためと、病原菌抵抗性の植物の作製を試みのため、この領域を含む者と含まないキチナーゼ遺伝子を構築し、Agrobacterium tumefaciensのTiプラスミドを利用しこれらの遺伝子を導入したトランスジェニックタバコの作製を試みた。その結果、全長のキチナーゼ遺伝子を導入したタバコの作製に成功した。
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