微生物殺虫剤の代表的立場を担う殺虫性毒素産生細菌Bacillus thuringiensis(BT菌)の分子育種に関する研究において、本菌の溶原化ファージを利用した新規ベクター系の開発の可能性を検討した。本菌の産生する殺虫性毒素タンパク質を支配する遺伝子は、ほとんどの場合、プラスミド上に座上することが知られていることから、すでに筆者らが報告したプラスミド依存性ファージJ7W-1に着目し、まずこのファージゲノムの制限地図を作成した。さらに、誘発が起こりにくいJ7W-1ファージ変異株をJ7W-1溶原化BT菌株の中から検索することができたため、このファージ変異株の制限地図を作成し、親株と比較することでJ7W-1ファージの誘発に関与する領域をそのゲノム上で推定することができた。このことから、J7W-1ファージを利用した発現ベクターの構築の可能性が示唆された。 また、J7W-1ファージDNAがベクターとして機能する上で必須となる薬剤耐性の付与では、すでにBT菌内でその発現が確かめられたpC194のクロラムフェニコール耐性を予定していたが、本年度の研究でクロラムフェニコール耐性遺伝子はプロモーターを含んでクローニングすることができた。 一方、遺伝子の導入系の確立では、BT菌の類縁菌であるBacillus cereusが菌学的にも遺伝学的にも情報が多いことから、この菌に対してエレクトロポーションによる遺伝子導入を試みた結果、B.cereusがBT菌における新規ベクター系開発の宿主菌として充分使用可能であることを見いだした。 以上の平成5年度の研究結果から、平成6年度ではJ7W-1ファージゲノムに薬剤耐性遺伝子を組込ませたキメラDNAを用いてB.cereusへ導入し、その発現を検討してゆく予定である。
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