殺虫性毒素産生細菌Bacillus thuringiensisの分子育種を目的として、本菌の溶原化ファージを利用した新規ベクター系の開発を検討した。本菌の生産する殺虫性毒素タンパク質を支配する遺伝子は、ほとんどの場合、プラスミド上に位置することが知られていることから、ベクター構築の基盤となるファージとして本研究ではすでに筆者らが報告したプラスミド依存性ファージJ7W-1に着目してそのゲノムのベクター化を検討した。J7W-1ファージゲノムのB.thuringiensis基準菌株間における分布を検索した結果、3菌株において分布が認められ、そのうちの2菌株で臭化エチジウム誘発性のファージを検討した結果、1種はJ7W-1であり、もう1種はJ7W-1の変異株であることが判明した。そこで両者のゲノムの制限地図を作製し、比較検討したところ、J7W-1ゲノム中央部には約13.5kbの外来遺伝子導入可能領域が存在することが示唆された。一方、J7W-1DNAのエレクトロポレーションによるB.thuringiensisに対するDNA感染が成功したことから、ファージゲノムに選択的遺伝子指標としてクロラムフェニコール耐性遺伝子(CAT遺伝子)の付加を試みた。ファージゲノムへのCAT遺伝子の付加は、J7W-1溶原菌であるAF101株へCAT遺伝子とJ7W-1DNAの一部を組み込んだキメラプラスミドを導入することで、菌体内相同組換えによってJ7W-1プロファージにCAT遺伝子を付加させることで行った。ところが、今回作製したCAT遺伝子付加J7W-1ファージは感染後CAT遺伝子を脱落させることが判明した。遺伝子脱落の原因として宿主の制限が考えられたことから、B.thuringiensis基準菌株中で制限酵素産生を検討した結果、J7W-1の宿主であるisraelensis株でAvaIIのアイソシゾマ-見いだされ、その他でもalesti株、canadensis株、tohokuensis株およびkyushuensis株において制限酵素活性が認められた。
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