Steinernema属昆虫寄生性線虫における唯一の感染ステージであり、絶食や乾燥などに耐える能力に優れた感染態3期幼虫(IJ)の誘起要因を、in vivoおよびin vitro条件下で解析した。(1)IJを昆虫に感染させた場合も培地に接種した場合も、最初は必ず大型の第一世代成虫へと発育し、次ぎは小型の第二世代成虫となることから、第一世代成虫から第二世代成虫への発育は遺伝的にプログラムされているように思われた。しかし、第一世代雌成虫を新鮮培地に次々と移すと第一世代型成虫が出現し続けることからこの考えは否定され、IJ誘起の前段階にあたる第二世代成虫の出現は遺伝的に固定されたものではなく、環境的に制御されていることが明らかとなった。(2)自活性線虫Caenorhabditis elegans用の液体培地中でのS.carpocapsaeの発育は遅く、成虫のサイズは小さく、IJはほとんど誘起されなかった。しかし、この培地に滅菌した鱗翅目昆虫の幼虫を添加した後に抱卵雌成虫を接種すると、線虫は正常に発育・産卵を続け、線虫密度は高まり、接種後8〜10日でIJが出現した。この結果より、第一世代成虫が正常に発育できないほどに栄養条件が悪い場合には第二世代成虫によるIJ産生にはほとんど至らないこと、またIJの誘起には共生細菌の存在やI型からII型への菌相転換は必須ではないことが明らかになった。(3)無菌飼育したハラミツガおよびハスモンヨトウの終齢幼虫にIJを経口投与した結果、無菌線虫は殺虫力を示し、昆虫死体内で、宿主組織を著しく崩壊させることなく発育した。しかし、その発育は保菌線虫より著しく遅く、IJの出現は少なかったことより、昆虫体内での線虫の発育とIJ誘起には、線虫と共生細菌の共同作用による宿主の防御反応抑制と昆虫組織分解による線虫への栄養提供が大きく関わっていることが示された。
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