カイコ休眠卵を5℃に約2-3ヶ月間保護することによって休眠が覚醒する。この休眠覚醒期にソルビトール脱水素酵素(SDH)活性及びタンパク質が出現することが、既に、私達によって明らかにされている。本研究では、SDHの生合成が転写のレベルで調節されているかどうかを明らかにすることを目的とした。 カイコ幼虫の脂肪体のpoly(A)-RNAから作製されたcDNAライブラリーから、抗SDH血清に反応するクローンを得、インサートDNAの塩基配列を決定した。推定されるアミノ酸配列は、これまでに明らかにされている哺乳類のSDHのアミノ酸配列と類似していた。 このcDNAを用いたノーザン・ハイブリダイゼーションの結果から、また、reverse transcription/polymerase chain reaction法により、休眠卵では、SDH mRNAが冷蔵40-50日から出現・増加することが明かとなった。また、SDH mRNAは胚子細胞よりはむしろ卵黄細胞に局在することが判明した。このことは、5℃冷蔵によるSDH活性の誘導は、mRNAのレベルで調節されていることを示している。 さらに、SDH cDNAを用いて、カイコのゲノムライブラリーからスクーリニングを行い、陽性クローンを得、インサートDNAの塩基配列を決定した。カイコのSDH遺伝子は約10kbにわたり、8つのエクソンから成ること、5'-上流域には5つのTATA boxがあることが明かとなった。今後は、低温によるSDH遺伝子発現に係わる転写因子の解明が課題となった。
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