Aspergillus nigerのグルコアミラーゼには二種のアイソザイムG1とG2が含まれる。G1は、触媒ドメインと澱粉結合ドメインがリンカードメインで結合された構造を持ち、G2はそのうちの澱粉結合ドメインを欠いた構造を持つ。これらG1とG2を市販酵素標品から単離精製し、それらの熱変性反応を断熱型示差走査熱量計によって観測した(pH7.0)。 その結果、G1は独立に熱変性する5つのコンポーネントからなることが判明し、またそのうちの一つは可逆的な変性を示した。これに対してG2の熱変性は4つのコンポーネントからなり、すべてが不可逆変性であった。阻害物質SGI共存下では、G1、G2共に、不可逆な4つのコンポーネントの変性温度が上昇したが、G1の可逆コンポーネントでは変性温度は不変であった。他方、β-シクロデキストリン共存下では、G1の可逆コンポーネントのみの変性温度が上昇し、他のコンポーネントの変性温度は、G1でもG2でも不変であった。 以上の結果から、次のようなことが結論された。 (1)澱粉結合ドメインは熱変性に際して可逆的であり、β-シクロデキストリンはこのドメインに結合する。 (2)触媒ドメインとリンカードメインは総計4つの変性のコンポーネントからなり、SGIはそのうちの(触媒ドメインに属する)いずれかに結合する。またそれら4つのコンポーネントには相互作用が存在する。 (3)澱粉結合ドメインと他の二つのドメインには熱変性に際して全く相互作用がない。 以上の結果は、本酵素の、特に澱粉加水分解機構を探るための重要な手がかりを提供すると共に、同一分子内で一部は完全に可逆変性、一部は完全に不可逆変性を示すというきわめて珍しい例であり、タンパク質化学の問題としても興味ある題材を提供するものと思われる。
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