ブドウ糖の工業生産において重要な酵素、グルコアミラーゼを対象とし、その構造と機能について熱力学的、反応速度論的手法を用いて調べ、種々の知見を得た。 1.Aspergillusのグルコアミラーゼの熱変性をDSCを用いて観測した。その結果、本酵素の触媒ドメインは不可逆的な、澱粉結合ドメインは可逆的な熱変性を起こすことが判明した。種々のリガンドの共存系での観測から、β-シクロデキストリンは澱粉結合ドメインに、1-デオキシノジリマイシンは触媒ドメインに結合し、それぞれの結合に関して触媒ドメインと澱粉結合ドメインの間には相互作用がないことが明らかになった。 2.Rhizopusのグルコアミラーゼによる、イソマルトオリゴ糖の加水分解反応を観測し、サブサイト構造を評価した。その結果、イソマルトオリゴ糖の加水分解分解速度がマルトオリゴ糖の場合に比べて遅いのは、真の加水分解速度定数が小さいことと、生産的な結合の割合が小さいことが原因であることが判明した。 3.Phizopusのグルコアミラーゼによる、マルトオリゴ糖およびイソマルトオリゴ糖の加水分解反応を、HPLCを用いて観測した。いずれの場合も、基質の減少初速度と生成物の増加初速度が一致し、本酵素の反応機構が「ランダムアタック」機構であることが判明した。これにより、これまでに得られたサブサイト構造の評価法の妥当性が確認された。 4.Aspergillusのグルコアミラーゼに対する、グルコノラクトンと1-デオキシノジリマイシンの阻害形式を調べたところ、前者は触媒部位以外の部位に結合して不活性な三重複合体を形成するか、後者は基質とは拮抗的に活性部位に結合することが判明した。
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