微生物起源のノイラミニダーゼを用いるシアロ糖鎖合成法の確立を究極の目的として、ミクロモノスポラ、クロストリディウム、ストレプトコッカスのノイラミニターゼ(それぞれ、M、C、Sと略す)の酵素化学的性質を検討した。Mの基質コロミン酸に対する親和性はCと比べ200倍以上、Sに比べ33倍も強い。Sでは、基質濃度10mg/ml以上で強い基質阻害が認められるが、MとCでは認められない。いずれの酵素でもコロミン酸に対する活性は、エタノール(EtOH)添加により強く阻害され、40%で完全に消失するが、ポリエチレングリコール(PEG)の存在下では逆に、20-100%活性化される。また、NaClの添加に伴い活性の低下が認められ、0.5M NaCl添加のとき、0.15%にまで低下する。NaClは酵素と基質との親和力を弱めると考えられる。ガングリオシドを基質とするとき、Cの活性は、低濃度のEtOH(2-5%)により大きく低下し10%以下となるが、それ以上の濃度で活性は回復し、20-40%で活性は、130%となる。一方、2-20%PEG存在下に活性は、200%に増大する。アセチルノイラミン酸とラクトースからSの存在下にシアリルラクトースを合成した。生成物はTSKgel Amido-80を用いるHPLCで分解し、示差屈折計RI-8020(本計画で購入)を用いて分析した。生成収率は2%である。シアロ糖鎖の酵素合成において、平衡を合成側にシフトさせるために高い基質濃度とアルコール類や塩類の添加が有効であると考えられる。本研究で用いた3種の酵素には、基質阻害、アルコールによる失活、PEGによる活性化、基質の構造変化などの要因が重要な役割を果していることが示された。Cを用いてガングリオシドを合成する場合、PEG♯600(2-20%)の添加が収率増大に有用であると思われる。本研究ではシアロ糖鎖合成のための基本的な知見を得ることができた。いずれの酵素も極めて不安定であり、安定性の賦与が今後の課題である。
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