本年度の研究計画は、1)緑膿菌のリン酸走化性・アルカリホスファターゼ構成変異株(APC1株)を相補する遺伝子の取得、2)緑膿菌の走化性一般に関与する遺伝子の取得、3)緑膿菌のリン酸認識能の解析であるが、いずれについても十分な成果が得られた。それを以下に述べる。 1)広宿主域コスミドpCP19を用いて緑膿菌の遺伝子銀行を作成し、APC1株を宿主としてAPC1株の構成変異を相補するDNA断片の単離を行い、27.5-kbのHindIII断片を得た。さらにサブクローニング・相補試験を行い、相補に必要な領域を3.2-kbEcoRI-BglII断片にまで限定することができた。この断片には、リン酸走化性とPhoレギュロンの共通な負の調節因子がコードされていると考えられる。現在、この領域のDNA塩基配列の決定を行っている。 2)緑膿菌をNTGにより変異処理し、運動性は正常なもののペプトンに対する走化性を示さない変異株を数株取得した。変異株のひとつPC5を宿主としてクローニングを行い、20-kbのHindIII断片を得た。PC5以外の変異株も使用してサブクローニング・相補試験を行った結果、少なくとも3つの走化性遺伝子がこの断片にコードされていることがわかった。今後、シーケンシングを行い、それら遺伝子の詳細を調べる予定である。 3)すでにクローニングしているPhoレギュロンの調節遺伝子であるphoBを利用して位置特異的変異導入の技法により、緑膿菌のphoB変異株を作成した。この変異株は、アルカリホスフアターゼの発現誘導能は欠損しているものの、リン酸走化性は正常であることから、リン酸走化性はPhoレギュロンには属さないことが示された。1)の結果も合わせて考えると、緑膿菌のリン酸認識機構は複雑な制御のもとにあるようである。次年度はこの制御システムを中心に研究を進める予定である。
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