本研究は、耐塩性酵母 Zygosaccharomyces rouxiiの耐塩性機構の中心命題である。Na^+排出機構について実施された。本機構に関してNa^+/H^+アンチポーターとNa^+ATPaseを介したルートを想定した。これまでに、分裂酵母からNa^+/H^+アンチポーター遺伝子(sod2)が、出芽酵母からNa^+ATPase酵母(ENA1)がクローニングされていたが、それらの相互関係は不明であり、耐塩性酵母においては全く検討されていなかった。そこで、それらの遺伝子に対する相同遺伝子をZ.rouxiiからクローニングした。Z.rouxiiのアンチポーター遺伝子(Z-SOD2)は791個のアミノ酸をコードしており、その産物は分裂酵母のそれよりも大きく、C末端に余分に親水性アミノ酸に富む流域を含んでいた。さらに、同領域の発現制御における関与を考察した。Z-SOD2は発現が食塩ショックにより上昇せず、構成的な遺伝子であることを確認した。Z-SOD2の遺伝子破壊の結果から、Z-SOD2破壊株で耐塩性の低下を確認し、耐塩性における Z-SOD2の重要性を明らかにできた。Z.rouxiiのNa^+-ATPase遺伝子(Z-ENA1)は1094個のアミノ酸をコードしており、産物は出芽酵母それとほぼ同じ大きさであった。Z-ENA1の発現(転写)が食塩ショックにより誘導されたことより、同遺伝子の産物がZ.rouxiiのNa^+排出に関係していることを推察した。本実験により、Z.rouxiiの耐塩性機構と関与して、Na^+/H^+アンチポーターとNa^+-ATPaseの二つの細胞膜Na^+輸送因子を介したルートの作用が明らかにできた。今後、これら二つの遺伝子を利用した非耐塩性生物の耐塩性化実験を実施し、生物の分子育種を試みたいと考える。
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