研究概要 |
昨年度、変異株Aspergillus niger 817とエタノール耐性を示す野生株Saccharomyces cerevisiae 1200を用いる並行複発酵でイヌリンから20-21%(v/v)の高濃度のエタノールを生産した。本年度は、イヌリナーゼを構成的に産生するA.niger 12株に^<60>Coのγ線照射を行い、すでに取得した変異株A.niger 817の産生する細胞外イヌリナーゼの精製と酵素化学的諸性質を明らかにした。A.niger 817は、細胞外イヌリナーゼの活性が親株に比べ4倍高く、逆にエキソ型イヌリナーゼが示すインベルターゼ活性が低下した。その結果、イヌリナーゼ活性のインベルターゼ活性に対する比(I/S比)が親株の53から880に上昇し、エンド型イヌリナーゼが細胞外イヌリナーゼの主要な活性を占めた。スクロースを炭素源とする酵素生産用液体培地でA.niger 817株を30℃で120時間振盪培養後の培養濾液からDEAE- セルロファイン、続いてQ-セファロース HP カラムクロマトグラフィーで電気泳動的に単一な2種のイヌリナーゼ、P-IA(350U/mg)とP-IB(340 U/mg)を単離精製した。P-IA、P-IBともに比活性が親株のエンド型イヌリナーゼP-IIIより約3.5倍高く、両酵素の分子量は68,000(P-IA)と70,000(P-IB)であった。いずれの酵素もイヌリンに特異的に作用し、スクロース、ラフィノースには作用しなかった。また、イヌリンの主要な加水分解産物は、イヌロトリオースとイヌロテトラオースであり、両酵素のイヌリンに対する作用はエンド型であった。イヌリンに対する見かけのK_m値は親株のエンド型イヌリナーゼの1.25mMに対し、本変異株のエンド型イヌリナーゼでは0.48(P-IA)と0.50mM(P-IB)であった。今後、A.niger 817の強力なイヌリン分解酵素系を利用して、イヌリンを含有するキクイモなどの植物から機能性食品素材としてのフルクトースシロップやイヌロオリゴ糖の連続生産への応用を計画している。
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