研究概要 |
通常の大気中で日照量が十分なとき、高等植物の光合成速度はCO_2固定の段階で強く律速されている。CO_2固定反応が遅い主因はCO_2固定酵素であるリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RuBisCO)の酵素としての効率の悪さにある。高等植物のRuBisCO(植物型RuBisCO)の _<cat>は3.3sec^<-1>しかなく、これは一般的な酵素の1/100〜1/1000である。またRuBisCOのCO_2に対する基質親和力は弱く、光合成を行っている葉緑体内にあるRuBisCOのほんの20〜30%しかCO_2固定に関与できない。 我々の研究グループでは植物型RuBisCOの履歴現象に着目し、既にホウレンソウRubisCOを用いてフォールオーバーに関与すると思われる3つのリジン残基を固定した。これらの残基のうち2つ、Lys^L-21およびLys^L-305(上付き文字^Lはこのリジンが大サブユニット由来であることを示す)は、フォールオーバーを示す植物型RuBisCOではよく保存されているが、フォールオーバーを示さない細菌型RuBisCOではアルギニンやプロリンなどになっており、履歴現象誘発部位としての可能性が高い。 そこでLys^L-21およびLys^L-305の酵素活性への影響を調べるため、高等植物と同じサブユニット構造を持つが細菌型である光合成細菌Chromatium vinosumのRuBisCOを材料に、大腸菌にクローリングされたこの酵素の当該残基を部位特異的変異導入によって植物型ののリジンに変え、フォールオーバーの誘発を試みた。その結果これらの変位導入は、時間と共に活性が上昇する履歴現象をもたらした。反応開始時には野生型と同じだけの活性化されていたにもかかわらず、変位型の _<cat>は6.0から8.2sec^<-1>にまで上昇した。このような活性上昇型の履歴現象は接合藻のRuBisCOが示すものと一致した。現在のところ活性上昇の原因は不明だが、本研究は履歴現象の解明への糸口になると期待している。
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