Diels-Alder反応は非触媒的に基底状態で起こることが知られ、軌道対称性保存則に従い高い立体選択性を示すため、天然物全合成において多用される反応の一つである。近年、[4+2]付加反応(Diels-Alder反応)により、生合成されたと予想される天然有機化合物が数多く見い出されてきているが、生体内(酵素)反応の実在することを証明した例はない。今回生体反応としては未だ例のない新しい型の炭素-炭素結合形成反応である本反応が実在することを証明するため、植物毒素solanapyrone A(1)を対象として選び研究を行った。 重水素標識した仮想前駆体2の短段階合成経路を確立した。さらに標識化合物の菌への取り込み実験により直鎖状トリエンが実際にsolanapyrone A(1)に変換されることを確認するとともに、標識された1に光学活性なアシル基を導入し、一方のジアステレオマーにのみ重水素が保持されることを^2H-NMRにより確認した。これにより本環化は非酵素的に起きているのではなく、酵素的[4+2]付加環化反応により進行することを明かにし、Diels-Alder反応が生合成に関与することを世界で始めて立証することができた。 また無細胞系で酵素活性を検出するためのHPLCを用いた検定法を確立できた。これにより20ug/mlと微量の1を検出することが可能となった。
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