研究概要 |
味噌・醤油など含塩醗酵食品の製造および保存の過程で重大な問題は、分類学上同一種と一括されながら、醸造過程で有用な酵母(非産膜性)と、白カビと通称される有害酵母(産膜性)が存在することである。産膜性酵母による食品の汚染は、見栄えばかりでなく、悪臭を発し、さらには食品の過度な酸化を招く。本研究では、味噌の産膜に関与するZygosaccharomyces rouxiiを取り上げ,天然物,特に植物成分による産膜防御の可能性を検討するとともに、膜形成機構についての微生物生理学・生化学的解析を行なうことを目的とした。 平成5年度では、マメ科ミソナオシの糖脂質成分がZ.rouxiiによる産膜を抑制することを明らかにした。本年度はまず、得られた活性糖脂質2成分の構造解析を試み、両者(DGDGおよびMGDG)の最終構造がそれぞれdi-およびmono-galactosyl dilinolenoylglycerideであることを明らかにした。また、産膜活性をより定量的に判定するため、培養後の菌体コロニーの反射率をカラーメーターで測定する新たなアッセイ法を開発した。糖脂質は界面活性効果を有している。すでに、酵母による産膜は界面活性剤で抑制されることが知られていたので、DGDGおよびMGDGの活性を上記アッセイ法にて種々の界面活性剤のそれらと比較した。その結果、両糖脂質は既存の界面活性剤より30倍以上の活性を有しており、産膜抑制天然物として有効であるとの結論を得た。活性は含有脂肪酸残基の種類により左右され、例えば小麦由来の糖脂質(linolenoyl基以外の脂肪酸残基を持つ)の活性は低いことが判明した。DGDGおよびMGDGのHPLC定量分析法を確立し、ミソナオシ中の主糖脂質である両成分は6月および11月頃最も多量に葉に蓄積されることが分かった。産膜時における菌体の生理を化学的に解析する一歩として、産膜性(産膜時)および非産膜性菌体細胞壁の成分比較を行なった。産膜時の菌体では脂肪酸、特にoleicおよびlinoleic acidが異常に蓄積されていることが明かとなり、脂肪酸代謝の側面から、酸膜機構解析が可能であるとの示唆を得た。
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