植物有用二次代謝成分の多くは発展途上の低開発国から安価に輸入する野生あるいは半野生植物に依存している。しかし、これらの植物資源は地域開発や乱獲による枯渇が憂慮され、また、天然資源だけでは供給が不可能な超微量成分の有効性が明らかになっている。これらの有用成分の安定供給を可能にする一つの方法として、20年程前から植物細胞培養法が注目されてきた。しかし、未分化の培養細胞では多くの二次代謝機能が十分に発現しない。有用物質の生産法として培養細胞を有効利用するには、二次代謝機能発現の調節機構を理解・解明しなければならない。本研究では、地下部の内部にのみアントシアニン色素を生成・蓄積する紅芯ダイコンを用いて二次代謝の制御機構を探った。発芽後数日間暗黒下で生育したダイコン実生は光照射開始後24時間目にアントシアニン生成を開始する。照射開始直後から銀染色による二次元電気泳動法(一次元目:NEpHGE、二次元目:SDS-PAGE)で経時的に色素生成部位のタンパク質パターンを調査したところ、色素生成12時間前に出現する塩基性タンパク質(約20kDa)が検出された。色素を生成しない暗黒下や試薬(タンパク合成阻害剤、植物ホルモンなど)添加培地では、該当タンパク質は検出できなかった。一方、暗黒下であっても蔗糖を添加するとアントシアニンを生成できる実生の切片でも色素生成と上述タンパク質の出現との間にも、無傷実生の場合と同じ関係が認められた。発芽数日のダイコン実生では、本葉を持たず特に顕著な代謝的形態的分化は見られないことから、色素生成と時間的に関連して出現する当タンパク質はアントシアニン色素の生成に関与する律速酵素か、あるいは色素生成を制御する調節タンパク質である可能性が示唆された。該当タンパク質を精製し、ペプチドシーケンサーで分析したが、N末端のアミノ酸を検出できず、誘導体化されているものと思われた。今後は、質量分生計あるいは他の方法でタンパク質の構造を明らかにし、その生理的役割を解明したい。
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