食糧増産における阻害因子である農業害虫あるいは快適な日常生活に悪影響を与える衛生害虫などを防除する一つの手段に殺虫剤の使用があり、多くの合成殺虫剤がすでに開発されている。しかし、合成殺虫剤には、人間や動物への悪影響あるいは田畑などへの残留性を始めとする環境汚染など幾つかの問題点がある。そこで生分解され易い生物由来、特に微生物由来の殺虫性物質の開発が待たれている。 著者らが分取に成功した殺虫性物質生産菌Penicillium simplicissimumATCC 90288(AK-40)株は、オカラ培養において特異な構造を有する新規インドールアルカロイドオカラミンAおよびBを生産する。オカラミン類のようなアゾシノインドール環を有する天然有機化合物は非常に珍しいので、それらの生合成経路に興味が持たれる。そこで、オカラミン類の生合成系に関する研究を展開し以下のような成果を得た。 1.オカラミンAおよびBの生産菌であるATCC 90288株の代謝産物を精査し、新たに生合成関連化合物であるオカラミンDおよびE、Fを得た。 2.オカラミン類の生産培地であるオカラを用いた固体培養で、オカラミン類の生合成前駆物質と考えられるトリプトファンおよび酢酸の取り込み実験を行なったけれども、取り込みは認められなかった。 3.取り込み実験を行なうための液体培養条件の検討を行ない、合成培地であるツァペック培地やサブロ-培地にオカラ抽出物を添加することによりオカラミン類が生産されることを明らかにした。すなわち、オカラ中にオカラミンの生産を促進する何らかの因子が存在することが強く示唆された。
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