1、ピレスロイド、メトキシクロル、およびカルモジュリン阻害剤の神経生理活性の比較 ピレスロイドやDDTはカルモジュリン依存性の酵素群を阻害することを報じた論文を参考にして、数種のピレスロイド、メトキシクロル(DDT類縁体)、およびW-7を代表とするカルモジュリン阻害剤のアメリカザリガニ巨大軸索膜に対する効果を検討した。膜電位レベルでは、殺虫剤およびW-7は活動電位の下降相に互いに良く似た形状の脱分極性後電位を誘起したが、W-7以外のカルモジュリン阻害剤は脱分極性後電位を誘起しなかった。膜電位固定法によって殺虫剤とW-7の膜電流におよぼす効果を解析したところ、殺虫剤はナトリウムチャネルの不活性化を遅らせるのに対し、W-7はカリウム電流の増大を抑制することがわかった。これらの事実より、ピレスロイドとDDTの作用はカルモジュリンを介して発現するのではないと推定した。 2、ピレスロイドとしての活性を有する光親和性標識化合物の合成 ピレスロイドのレセプターを究明するため、酸部分を3-methyl-2-(4-azidophenyl)butanoic acidとし、アルコール部分をN-hydroxymethyl-4-methoxyphthalimideとするエステルを合成した。化合物はシュークロースギャップ法で測定されるアメリカザリガニ巨大軸索膜のナトリウム電流の不活性化過程を阻害し、パッチクランプ法によって観察される種々の培養神経細胞のナトリウム電流の開状態時間を引き伸ばすことを確認した。以上の生理活性は、これまでに報告されているピレスロイドの生理活性と同様のものであることから、新たに合成した化合物はピレスロイドと同じレセプターに作用するものと考えた。今後、本化合物の酸部分が持つ光親和性官能基とアルコール部分が発する蛍光を利用して、ピレスロイドのレセプターを同定する予定である。
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