昨年度までの研究により、コメタンパク質プロモーター・GUS融合遺伝子を構築し、イネに導入して形質転換植物体を得るとともに、その種子において外来遺伝子であるGUSを特異的に発現させることができた。しかし、GUS遺伝子の形質転換イネ種子での発現効率は必ずしも高いものではなかった。そこで、今年度は、まずイネ種子での発現量が最も多いグルテリンの遺伝子、およびイネ種子でのデンプン合成における枝付け酵素(branching enzyme)の遺伝子を用いて、それらのプロモーター活性を比較した。その結果、昨年度用いたイネ種子アルブミンおよびプロラミンの遺伝子プロモーターに比べて、グルテリンプロモーターあるいはbranching enzymeプロモーターは形質転換イネ種子での転写活性が高く、遺伝子導入による異種良質タンパク質のイネ種子での特異的発現に適していることが明らかとなった。次に、異種タンパク質として牛乳ラクトフェリンを選択し、そのN-末端活性ペプチドのイネ種子での発現を試みた。ラクトフェリンペプチドは優れた抗菌活性を持ち、特にリステリアなどの病原性細菌にも効果があることから、食品由来の機能性ペプチドとして注目されている。このペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを合成し、2本鎖とした後プラスミドに組み込み、大腸菌を形質転換した。いくつかの陽性クローンについて組み込まれたDNA断片の塩基配列を決定し、ラクトフェリンペプチドをコードするcDNAクローンを得た。現在、このcDNAをグルテリンプロモーターおよびbranching enzymeプロモーターに連結し、イネ培養細胞への導入を行っている。
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