血中の高密度リポタンパク質(HDL)は末梢組織から肝へのコレステロールの回収を行い、抗動脈硬化作用を有するリポタンパク質である。HDLの生合成は、それを構成するアポリポタンパク質の生合成が大きく支配している。そのうちで最も主要なものがアポリポタンパク質A-I(ApoA-I)である。本研究ではアスコルビン酸(ビタミンC、AsA)摂取によるApoA-I生合成の制御機構を明らかにすることを目的としている。我々は、遺伝的AsA合成不能ラット(ODSラット)においてAsA欠乏時には、血中ApoA-I濃度が明らかに低下することを見いだした。そしてこの低下は血中HDL1及びHDL2中のApoA-Iの減少によるものであることも明らかにした。血中ApoA-I量の減少は、肝臓のApoA-I mRNAレベルの低下と呼応していることを確認した。しかし、もう一つのApoA-I産生臓器である小腸におけるApoA-I mRNAレベルにはAsA摂取は影響を及ぼさなかった。さらに、AsA欠乏群にAsAを投与した後、経時的に肝臓のApoA-I mRNAレベルと血中ApoA-I濃度を追跡した。肝臓のApoA-I mRNAレベルはAsA投与後3日目以前に対照群のレベルに回復し、その後血中ApoA-I濃度が対照群のレベルに回復した。これらのことにより、AsA摂取は肝臓に特異的に影響してApoA-I mRNAレベルを変化させ、肝でのApoA-I生合成を制御していることが示された。さらに肝のApoA-I mRNAレベルのAsA欠乏時の低下の機構を探るため、AsA欠乏群と対照群の肝臓の単離核を用いてApoA-I遺伝子の転写速度を測定した。その転写速度はAsA摂取によって影響を受けなかった。このことにより、AsAはApoA-I遺伝子の転写以降の段階で作用してApoA-I mRNAレベルを制御していると考えられた。
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